スマートシティ 関連コラム

2012年7月23日

電力料金が毎日変わるダイナミック・プライシング、生活にどう影響

筆者:志度 昌宏=日経BPクリーンテック研究所
出典:日本経済新聞電子版「クリーンテック最前線」 6月13日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

料金レベルを5段階で設定

実証実験の参加家庭などに設置されるスマートメーター

 料金テーブルの伝達には、家庭や事業所に設置したスマートメーターを用いる(写真3)。家庭ではスマートメーター経由でタブレット端末などを使って料金テーブルを参照し、家事の時間帯などを考慮する。事業所ではそれぞれが持つBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)によって、事業所内の照明や空調機器を制御することで電力使用量を抑えていく。

 ダイナミック・プライシングの検証で重要なことの一つが、料金テーブルをどのように設定し、いつ通知するかということだ。

 料金の変動幅が小さすぎると、多くの消費者は「それぐらいは払ってもよい」と考えてしまい、需要抑制にならない。逆にいたずらに変動幅を広げてしまうと「どうしても電気が必要」という需要家の負担が過大になってしまう。

 料金テーブルを適切に設定できたとしても、通知が早すぎるとうまくいかない。時間がたつうちに忘れてしまったり、電力が足りないという切迫感に欠けたりして抑制が効きにくいこともあるだろう。一方で料金テーブルの伝達が直前すぎてもよくない。消費者は常に料金テーブルを気にしているわけではないので見過ごしたり、予定を動かしにくかったりするからだ。米国では、2時間前に通知するケースもあるようだが、今のところ日本ではなじまないのではないかと考えられている。直前に通知する場合は、例えば外出してしまった後でも電力使用機器を遠隔操作でオフにできる仕掛けなども必要になってくるだろう。

 北九州市の実証実験では、料金テーブルを5段階で変更する計画だ。レベル1が平常時の昼間料金(約20円)で、レベル5ではこれを7.5倍の150円にまで引き上げる。夏季は13時~16時の日中に、冬期は8時~10時と18時~20時までの2回、料金を変動させるイメージだ。

 この料金テーブルを、基本的に前日に各スマートメーターに送付する。当日朝にも再度、需給を予測し、前日に送付した料金テーブルが適切かどうかを確認する。その際、緊急需要などがあれば、当日朝に特別な料金テーブルを送付することもある。

 こうした制度の設計を支援したのは日本IBMだ。同社の橋本孝之取締役会長によれば「日本初はもとより、制度のきめ細かさでみれば世界初の取り組みになる」という。北九州市の北橋健治市長も、「ダイナミック・プライシングなどの“賢い”システムをここから世界中へ発信していく」と意気込む。

“スマート化”に向けたIT面での課題も解決へ

 ダイナミック・プライシングの実証実験では、料金テーブルなどの制度設計と並行して、地域節電所とスマートメーターを結ぶ仕組みといったIT(情報技術)面でも多くの検討が進んでいる。具体的には、ネットワーク上でやり取りするデータの形式や伝送方法、データの扱いに対するセキュリティーポリシーなどである。今回は北九州市が定めたガイドラインに沿って、地域節電所や事業所に置かれているBEMSなどとの接続などが実現されている。

 セキュリティーの確保は、ダイナミック・プライシングの実証においては特に大きな課題になる。ガイドライン作成などを支援した新日鉄ソリューションズ(NSSOL)の桜井新システム研究開発センター部長によれば、「スマートメーターで取得した使用量のデータは、いわゆる機微(センシティブ)情報として扱わなければならない」という。スマートメーターでは、従来の電力計とは比べものにならないほど多くの情報を取得できる。つまり、データを解析するとその個人がどのような生活をしているのか見えてきてしまう。このため、漏れてはならない重大な個人情報を意味する機微情報として、慎重に扱う必要がある。

 スマートメーターで取得した同じデータであっても、地域全体としての需要量予測などで統計処理する場合は、個人を特定する必要がない。そこでの情報システムは、使用量データを機微情報として扱う必要はないが、課金システムにおいては異なる。上記の理由から機微情報として扱うので、情報システムとしてもセキュリティーに配慮した作りが必要だ。具体的には、データを分割保存して安全性を高めたり、暗号化を施して読み取りにくくしたりといった仕組みを実装しなければならない。

 2012年の夏の電力不足がいよいよ厳しくなり、エネルギー基本計画の見直しも進む中、デマンドレスポンスの実効性への期待が高まっている。北九州市での実証開始式典に参加した経済産業省の牧野聖修 副大臣は「節電や負荷の平準化に向けて、需要家に働きかけることは従来、困難だった。ダイナミック・プライシングはデマンドレスポンスの切り札になる」とした。

 電力料金を可変にすることが日常の暮らしにどう影響を与えるのか。北九州市の実証実験には、世界からの注目が集まっている。

一覧へ戻る

メディアパートナー

  • FT
  • Bloomberg Businessweek
  • 人民網
  • 能源網
  • 環球雑誌社(新華社)
  • 瞭望周刊社(新華社)
  • サイゴンタイムズ

Platinumスポンサー

Goldスポンサー

Silverスポンサー

Bronzeスポンサー