スマートシティ 関連コラム

2012年9月11日

【そもそもから考えるエネルギー論】
シェールガスに期待し過ぎてはいけない

大場 紀章
出典:日経ビジネスオンライン 2012年3月26日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

価格上昇リスクを過小評価?

 DoEは、LNG輸出が米国天然ガス価格に与える影響について検討した報告書を発表し、その中で24~54%の価格上昇があると見積もっています。これは無視できない上昇ですが、現在の価格が非常に安いことを考えれば、著しく大きいとも言えません。ウッドマッケンジーやIHSのようなエネルギー専門機関も、LNG輸出による価格への影響は軽微だとの見解を表明しています。

 しかし、こうした見通しは、ガス価格の低迷にあえぐガス生産者業界の声を代弁しているのかもしれず、リスクを過小評価している可能性があります。実際、ガスを大量に購入する化学、電力、製造業、アルミなどの産業界の懸念は根強く、特に雇用力の大きい製造業を中心に地元国会議員に対して強い圧力をかけています。

 また、安全保障上の議論もなされています。非FTA国に向けてLNG輸出を認可することは、日本と同じように高いLNGを購入している韓国、台湾、中国に向けて輸出することを意味しますが、将来軍事的に敵対する可能性のある中国に対して、戦略物質とみなせるLNGを供給することは国家安全保障上問題である、といった議論です。

 2012年1月4日、エドワード・マーキー下院議員(民主党)は、米国エネルギー省スティーブン・チュー長官に対し、LNG輸出許認可を再考するように進言する書簡を送りました。さらに2月14日にはLNG輸出認可を2025年まで差し止めさせるなどの内容を含む2つの法案を下院に提出しています。

 一方、エネルギー省の石油・天然ガス局クリストファー・スミス副次官補は、2月24日チュー長官の指示により書簡に回答し、エネルギー省は許認可権を価格コントロールの手段としては考えていないとの立場を表明しました。

 とはいいながら、チュー長官自身、価格上昇の影響の懸念を表明しており、LNG輸出の影響評価が終わるまでは決断をしないと発言しています。

お金さえあれば買えるものではない

 2月22日、我が国政府は米国からのLNG輸入に向け米政府と協議をしており、今春予定している日米首脳会談で合意できるように調整していることを明らかにしました。Bloombergが報じたところによれば、日本はCameron(計画:年間1200万トン)、Cove Point(計画:年間782万トン)、Freeport(計画:年間1320万トン)から輸入しようとしており、経済産業省の安藤資源燃料部長は合計3000万トンを超えるこれらの供給力のうち2割の600万トンが輸入されれば、日本の総ガス需要の約1割を占めることになると言いました。ただし、輸入開始時期は早くても2015年以降になると考えられます。いずれにせよまだ数年間は何の足しにもなりません。

 しかし、これまで述べてきたように、今の米国にとってこれ以上LNG輸出を認可することは、簡単ではありません。天然ガスを輸出することで得られるメリット(販売量増加と価格上昇によるガス事業者の利益拡大、ガス開発投資増、日本などの輸出先の景気下支え)と、デメリット(国内ガス価格上昇、化学・製造業等の雇用減、国家安全保障リスク)を比べて、総合的に国益にかなうかどうかを見極めなければなりません。

 オバマ大統領は、輸出を倍増して雇用を拡大する方針を掲げていますし、現在米国ではガソリン価格が上昇し、中間選挙を控えたオバマ大統領にとってエネルギー価格はセンシティブな問題になっています。輸出を認可するハードルはかなり高いと思われます。そうなると、日本への輸出認可合意には何らかの政治的対価を求められると考えるのが当然ではないでしょうか。LNG輸入を取得した韓国も、FTA締結という対価を既に払ってきたと言えるでしょう。

 そうした国際政治上のリアリティを考慮に入れず、安いならただお金を払って分けてもらえばよいと考えてしまいがちなのは、日本のエネルギー議論のナイーブでとても危うい部分かと思います。もし米国からのLNG輸入を期待するならば、積極的な日本側からのトレードオフ提案を伴っているべきです。問題は、あまりに外交力のない今の日本にめぼしい交渉カードが見当たらず、足元を見られてどんな厳しい要求を飲まされるかわからないということです。おまけに要求を飲んだ上でも、実際に安いLNGが長期的に輸入できる保証はありません。

 現在の米国の安いガス価格は確かに魅力的に見えますが、ただそこだけを見て安易に「シェールガスがあるから大丈夫」などというのは短絡的に過ぎるのではないでしょうか。エネルギーはお金さえあれば買えるものではないのですから。

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