スマートシティ 関連コラム

2012年9月25日

【そもそもから考えるエネルギー論】
サウジアラビアが石油輸入国になる日

大場 紀章
出典:日経ビジネスオンライン 2012年3月12日
(記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)

「アラブの春」が「シーア派の春」に転化する懸念

 そうした事態を防ぐには、補助金をカットして国内のエネルギーや水価格を引き上げ、需要と補助金の抑制を図る必要がありますが、それを簡単には実行できない事情があります。

 昨年末、南米のボリビアとパキスタンにおいて、政府がエネルギー補助金の廃止・縮小の方針を発表したところ、激しい抗議デモやストライキが発生し、その方針は即撤回されました。さらに、今年1月、ナイジェリア政府がエネルギー補助金を打ち切ったことで激しい抗議デモが発生し、多数の死者を出す事態にまでなりました。

 サウジアラビアでは、昨年末頃から東部のシーア派住民による民主化デモが活発化しており、“アラブの春”が“シーア派の春”へと転化するという懸念が強まっています。

 以上のことを鑑みると、サウジアラビア政府が安易に補助金を縮小できない事情がうかがえます。さらに、そうした暴動や周辺国を含む混乱に備えて軍事費(歳出の3分の1を占める)も拡大しています。

2030年までに原発を16基建設する予定だが…

 サウジアラビアでは、10年後に2基の原発を建設し、その後毎年2基ずつ増設して2030年までに計16基の原発を建設する計画があり、それによって電力の20%をまかなうとしています。ただし、その計画が事態の解決に間に合うのか、計画がどこまで実現するのかは不透明です。

 天然ガスの開発も拡大させていますが、サウジアラビアのエネルギー研究機関KAPSARC(King Abdull ah Petroleum Studies and Research Center)のある研究員によると、「外部のエネルギー機関が期待しているほどの天然ガス供給の拡大は難しい」とコメントしています。

 また、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの開発にも力を入れています。しかし、アラブ石油投資会社の経済調査部長 Ali Aissaooui氏によれば、「太陽光発電はエネルギーバランスに大きな影響を与えないだろう」とコメントしています。

 このような石油以外の発電手段の開発は、電力部門の石油消費の抑制にはなりますが、これだけでは全体の石油消費増加を停止させることはできないでしょう。

 サウジアラビアは、かつては1バレル20ドル前後で石油価格を安定させる調整役としての役割を担ってきました。しかし、近年のサウジアラビアの言動を観察していると、あたかもその戦略は変更されたかのように見えます。つまり、何らかの要因で石油価格が上昇した場合に、様々な理由をつけて必ずしも十分な増産を行わないことで、高い石油価格を維持して悩ましい財政事情を切り抜けようとしているように見えるのです。しかし、その戦略もいずれ限界に達し長くは続きません。少なくとも、かつてのように世界経済のためではなく、自国の経済を最優先するという当然の傾向が顕著に現れています。

「輸出量」こそが輸入国にとって重要な数字

 世界最大の埋蔵量を誇り、世界第2位の産油国(現在の第1位はロシア)であるサウジアラビアの石油消費量が急増しているという事実から、何が言えるでしょうか。

 まず思い出さなければならないことは、石油の統計を見る場合、産油国の「生産量」ではなく「輸出量」こそが、私たちのような輸入国にとってより重要な数字であるという当たり前の事実です。全体の生産量は増加していても、輸出市場に出回る石油の量は減少しているということがあり得ます。

 世界の余剰生産能力の多くを受け持っているサウジアラビアにおいて、たとえ生産量を保っていても国内消費の増加によって輸出量が脅かされれば、世界の石油需給はさらにタイトになってしまいます。

 このような事態は、もちろんサウジアラビア以外の産油国でも起き得ます。長年にわたり日本などに原油を輸出してきたインドネシアは、油田の老朽化と国内需要の高まりによって2004年に純輸入国に転じました。そして今年1月、「基本的に輸出より国内需要を優先する」として、原油輸出の停止を検討していることを明らかにしました。日本がインドネシアから輸入する石油の量は全体の2~3%ですが、日本の火力発電所で燃やされる石油の約5割(東京電力・関西電力では約7割)は、環境への配慮から非常に良質なインドネシア産の低硫黄C重油であり、大きな影響が懸念されます。

 まして、サウジアラビアは日本が輸入する石油の3割を占めています。現在の傾向が続けば、サウジアラビアが輸出を減らさざるを得ず、現状は非常に悩ましいものと言えます。

■変更履歴
記事中、2ページ目下から3段落と3ページ目6段落、4ページ目1段落に「図2」とあるのは「図3」の間違いです。お詫びして訂正します。本文は訂正済みです
[2012/03/12 16:25]

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