2012年10月23日
【そもそもから考えるエネルギー論】
「石炭は豊富にある」という常識が覆る
石炭の特徴は、石油や天然ガスなどのエネルギーと異なり、生産量のほとんどが各々の生産国内で消費されており、いわば“地産地消”のエネルギーと言えることです。つまり、日本や韓国のように石炭消費のほとんどを海外に依存している国は全体のなかでは少数派で、石炭は一般的に国際的な関心の対象となりにくい側面があります。
石炭埋蔵量は期待していたほどない
さらに、中国やインドなどの主要産炭国では、埋蔵量の統計は国家によって直接管理されているため、国内のエネルギー専門家であっても情報へのアクセスは制限されています。また、石炭の分類もそれぞれの国でまちまちです。その意味では、石炭を客観的に評価することは、世界で取引され情報開示の需要が大きい石油よりも困難と言えます。
国際的な石炭埋蔵量の統計は、WEC(World Energy Council:世界エネルギー会議)で取りまとめられたものを引用することがほとんどで、BPやIEA(国際エネルギー機関)などの統計もすべて同じです。しかし、各々の国が公表している数値と大きく異なる場合もあり(石炭の分類や定義の違いによるものと思われる)、国際統計か本国の統計かどちらの値を採用すればよいのかの判断は悩ましいところです。
近年になって、石炭埋蔵量を再評価する動きがあります。かつて主要な産炭国であった英国、ポーランド、ドイツでは、近年の再評価によって埋蔵量のほとんどがなくなってしまいました(図2)。インドも同様に埋蔵量を大幅に下方修正しています。
また、米国でも最近になって再評価が始まっています。2007年、米国科学アカデミー(NAS)は「期待されていたほどの石炭埋蔵量はない可能性がある」との予測を発表し、米国のエネルギー戦略を考える上で最新の手法によって石炭埋蔵量を正確に把握することの重要性を指摘しました。それを受けた中間報告が2008年末に発表されています。
その分析結果によると、米国最大規模で最も生産性が高い炭鉱の一つであるワイオミング州のジレット炭鉱における再評価において、採算性がある(1トン当たり10.5ドル以下)のは、資源量のうち6%にすぎないと結論付けています。また、1トンあたり60ドルの価格であれば資源量の47%が生産できるものの、その価格では他の資源と競争ができないとしています。今後、全国規模の再評価が公表されるでしょう。

図2 主要産炭国の石炭埋蔵量の推移
(BP統計より筆者作成)